こどもが自然と集まる場所
本が大好きな編集者がつくる、遊び心満載の図書室 ── このあの文庫 vol.2
本の楽しさを知っているからこそのこだわり。
「こどもを本好きにするためには、こどもの近くに本を手渡す大人がいるか、そして、その大人がどれだけ本を知っているかが大事なんです」と、由さんは語ります。「まずは大人が本を楽しんで、それをこどもと共有したいという思いをもっていることがすごく大切なことです」。
大人が本を楽しんでいないと、こどもにその楽しさを伝えるのは難しい。頭ごなしに「本を読みなさい」と言っても伝わらないから、まずは自分が楽しむ姿を見せよう、と。
このあの文庫のことを、「ここは図書館のセレクトショップのようなものなんです」と表現する小宮さん。それを実感したというエピソードについて話してくれました。
「うちによく通ってくれるお子さんの親御さんに言われてハッとしたことがあります。『図書館で何を借りたらいいのかわからない。こどもに自由に選ばせると、キャラクターものばかり選んでしまう。でもここは選び抜かれた本ばかりだから、何を選ばせてもだいじょうぶ』と。これは、家庭文庫だからできることだと思います。『あの本を置いてくれ』と言われても、自分がいいと思わなければ置かない。これは譲れないですね」
こどもたちが自然と本に興味をもってくれますように──。このあの文庫で過ごしていると、小宮さんのそんな思いが感じられるような工夫に気づかされます。
特徴的なのは、本棚づくり。下の写真のように、一番下1〜2段には赤いラベルの本が並ぶのですが、これは絵本。黄色いラベルは、文字が多く、長いストーリーの本が並びます。こんな風に、「読みたい本を読んでいたら、知らない間に読む力もついていた」という発見も楽しめるようになっているのです。
「黄色いラベルの本は、いわゆる幼年文学と言われる、絵本とおはなしの架け橋になるようなジャンルです。長く読み継がれてきた名作も多くあるんですよ」
「最近のこどもは変わってしまったと言う人ほど、本当の意味でのこどもをわかっていない」と小宮さんは言います。「こどもは今も昔も大きくは変わりません。変えてしまう環境をつくっているのは大人。大人が、こども一人ひとりと向き合い、時間はかかるけれど、しっかりと見つめて手渡していけば、いつの時代のこどもでも、本への好奇心は育ちます」
長男のかいくんは、今小学2年生。生まれたときから既にこのあの文庫があり、本に囲まれて育ってきました。最近はマンガもよく読むようになってきたそうです。流行の平易な文体の冒険小説も大好きです。
まだまだ10年。このあの文庫の物語はつづく。
最後に、「これからやってみたいことは?」と小宮さんに聞くと、「唯一ストーリーテリングがここではできていないので、いつかやってみたいですね」と答えてくれました。
ストーリーテリングとは、素話(すばなし)のこと。本や道具を使わず、語り手が聞き手にストーリーを語るもので、こどもの目を直接見て話せるため、語り手と聞き手の活き活きとした感じが双方に伝わってくるのが魅力なのだそうです。
「今の文庫のつくりでは出入りが多いし、ストーリーテリングに参加したくないこどももいるだろうから、その子のために文庫のスペースは別に確保したい。そのための場所や環境を整えたいという気持ちがずっとあるんですよね。お話を憶えた時期もあったんですけど、なかなか実践まではいかなくて」
「この10年間は、あっという間でした。でも、まだまだこれから。来る子どもや大人たちは毎回どんどん変わっていくし、成長していく。だから終わりはないです」
撮影:野頭顕子 取材・文:舟之川聖子 編集 : たかなしまき
(取材は2014年3月に行いました)
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住所:東京都内
(訪問を希望する場合は、
HP「アクセス&問い合わせ」からメールを。
行き方を詳しく教えてくれる)
開館日時:毎週土曜日13:00~17:00
(夏休みや冬休みなど長期休暇あり。
HPで要確認)
入会・貸出:無料
HP:http://www7a.biglobe.ne.jp/~konoano/bunko_top.html
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