こどもが自然と集まる場所
恐竜とかくれんぼできる公園 ── 品川・子供の森公園
こどもたちから、「かいじゅう公園」と親しまれている公園が東京・品川区にあります。ほんとうの名前は、「子供の森公園」。日本が高度経済成長期にあった1971年に設立されました。ボール遊び、しゃぼん玉、鬼ごっこなどで遊ぶ姿が印象的ですが、調べてみると、こどもを中心とした公園造りが大切に受け継がれていることがわかりました。
小中学生の「こんな公園があったらいいな」を実現。
京浜急行「新馬場(しんばんば)」駅から徒歩3分。品川消防署を右手に、山手通りを挟んだ場所に「子供の森公園」はあります。特徴は、色とりどりの恐竜のオブジェが計8体、木々の間にかくれんぼするように立っていること。そんな恐竜のそばでこどもたちは走り回ったり、土いじりをしたり、恐竜たちの背中にのったり、しっぽにぶらさがったり、思い思いに遊びます。
子供の森公園のコンセプトは「恐竜の住まう公園」。1970年頃、品川区内で子育て世代向けの住居が増加していたのを背景に、「こどもたちの声を活かす」ことを重点に置いた新しい公園の計画が始まりました。まだ公園が区内に少なかったこの頃、計画の柱となったのは、近隣の半径1km内に建つ小中学校の生徒(小学4年生~中学2年生まで)を対象にしたアンケート調査。「どんな公園がほしいか」、こどもたちから意見やアイデアを募り、プロジェクトが具現化されていきました。
「圧倒的に多かったのが、『冒険ができる公園がほしい』という意見でした。次は、『原始の森』『交通公園』などその時代の流行が反映されたもの。また、全体的には『森』をイメージさせる言葉が多く集まりました。これは当時、品川区内は公園が少なく、都会の自然を公園に求める傾向が強かったことが大きな要因と言えます。そのとき、計画に携わった先輩方は、そんな背景を受けとめながら、こどもが中心にある公園を作ろうとしていたようです」(品川区の防災まちづくり事業部 公園課公園維持担当主査・本間眞祐さん)
当時の子供の森公園は、木々がうっそうと茂った公園でした。そこに約1億8000万年~1億7000万年前頃に消息していたといわれる計8体の恐竜のオブジェが散りばめられ、まさに恐竜が住む森のような雰囲気を醸し出していました。
「ターザンや木登りの要素を取り入れた、冒険ができるような遊び場をイメージに公園は作られました。また当時、こどもたちに人気だったローラースケート場もありました。こどもの野外遊びが制約されているような環境では、新しくこども用の野球場を作るのは難しいだろうと、こども専用の野球場も併せて敷地内に設置されました」
公園ができてしばらくすると、自然と、こどもたちから「かいじゅう(怪獣)公園」と呼ばれるようになります。
「『怪獣』とは、本来、動物のように動く正体のわからない怪しい獣のことを言います。日本では『ゴジラ』や『モスラ』のような巨大で強力な怪獣が映像化されたこともあって、恐竜=怪獣というイメージが浸透したようですね。こどもたちにとっては『恐竜』よりも、テレビなどでおなじみの『かいじゅう』が公園にいるイメージがあり、自然に俗称となったのでしょう」(本間さん)
親子で発見の旅へ。
子供の森公園がリニューアルされたのは、設立から約30年後の2000年でした。その頃、設立に携わった当時の担当者らは退職していたため、本間さんたちは当時の資料をもとにリニューアルの設計を進めていったそうです。
「リニューアルでは、こどもたちのアイデアを活かした『恐竜の住まう森』というコンセプトを、また次の世代へと継承していくことを大事にしたいと思いました。そのためには、現代の住環境や子育て世代の気持ちに寄り添った計画が必須でした。まず、夜は暗くて怖いという住民の方からの意見を反映できるように、開園以来、大きく育った木を整理し、見通しのよい、明るい雰囲気としました。また、遊具も当時人気のあったものに換えています」
また、リニューアルでも特に時間を費やしたのは、本間さんたちが恐竜を知ること、さらに、こどもたちが自然と知るための工夫でした。
「どうせならリアリティを追求しようと、国立科学博物館に通って足形を取るなど恐竜の特徴を徹底的に調べました。楽しかったですよ。たとえば、ティラノサウルスは足のサイズが小さいのに走ると速いんです。アパトサウルスは逆に足が大きいのに鈍足。公園では、そういった違いをおもしろいと感じてもらえるように工夫しています。恐竜によってしっぽが土の中に隠れているように見えたり、土の上からひょっこり出てきたり。大人の方もお子さんと一緒に見つけてみてください」
リニューアル時には、こんな裏話も。本間さんたちは、一般的に恐竜の色として推定されている茶系の色にこだわり、ポップな色を提案していた設計側と意見がぶつかったことがあったそうです。結局、恐竜の色は、こどもの安心感を再優先して明るい色に統一されました。そんな思いや経験を経て完成した子供の森公園への、本間さんの願いは「とにかく自由に遊んでほしい」。
「こどもたちには恐竜の実物に近いものを感じながら、かつて恐竜という生き物が存在していたことを身近に感じながら楽しんでほしいですね。そして、この公園で思う存分遊んでほしい。大人たちから何かを与えられるのではなく、自分たちでどんどん新しい遊びを創り出してほしいです」
好奇心がはじけるような遊び場を守りたい。
リニューアルから13年、子供の森公園の開園からは43年が経ちました。その間、大人とこどもをつなげてきた「子どもが主役」へのこだわりは、これから先、どんな風に受け継がれていくのでしょうか。
「たとえば、『多目的遊び場』のような場所にしていくことも視野に入れています。何もしない時間も、大切な遊びの時間だと考えるからです。過去には、恐竜や遊具の配置について苦情をいただいたこともありますが、こどもが自由に遊べる空間は守りたい。未来については、常にニーズの本質をとらえるためにも、できる限り利用者の方の声を聴きたい。それを次のリニューアルに活かしていきたいです」
撮影:モギヨシコ 文・編集:たかなしまき
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品川区立子供の森公園
住所:東京都品川区北品川3-10-13
(京浜急行「新馬場」駅より徒歩約10分)
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