のびた人インタビュー
みんなつながっている。── 米村でんじろうさんインタビュー vol.3
サイエンスプロデューサー、米村でんじろうさんのインタビュー3回目(全3回/vol.1「理科だけが好きだった。」、vol.2「失敗したら、それに気づくだけでも発見になる。」)。ストローで遊びながらお話をうかがった記録をご紹介します。
理科の勉強は、魔法を教わるようなもの。
──でんじろう先生の考える、科学の魅力についてもう少し教えてください。
たとえば飛行機が空を飛ぶこと。
魔法のじゅうたんがなくても、何百人もの人を一度に乗せて移動できるのが飛行機なんだ。でも、その飛行機も簡単に生まれたわけではない。携帯電話で遠くの人と話ができることとか、日常生活がすべて魔法みたいなものなんだ、実は。
誰もそんなふうには見ていないだけ。科学は、その魔法のような世界を現実にしてきた。
魔法のような不思議さや驚きが今、現実の僕たちの世界にあるし、そこへつなげてくれるのが科学。だから、すごく夢がある。学校で科学を勉強することは、魔法を覚えているようなもの。実はすごいことなんだよ。
今はまだその扉はほとんど開かれてないから、今後、こどもたちが研究していけば、半世紀後くらいには、今では想像もつかないようなことが実現するんじゃないかと思っている。その可能性はいくらでもある。
たとえば、冷蔵庫やエアコンが暖かくなったり、冷気を出したりするのはなぜだろう。山の上は涼しいでしょう?それはどうして?
みんなつながりがある。大切なのは自分で体験してみること。「おーっ!」っておどろきがあるからこそ、秘密を知りたくなる。
——その秘密を知るための方法ってあるんですか?
学校の勉強でもいいし、自分で調べてもいいし、誰かに教えてもらってもいい。そうすれば、だんだんわかってくるから。ただ、一度にすべてをわかろうとする必要はない。自分が理解できる範囲で知っていけばいい。
時々でもいいから、練習を続ける。
次はストローで遊んでみようか。
ストローの中に水を入れて、吹くと、鳥のさえずりになるわけ。
——え? どうやって?
ストローの中で水が動くことで音程が変わるんだ。
(でんじろう先生、ストローで音を出す)
——すごい!
本当はお風呂でやったほうがいいんだよね。水こぼすからね。これはね、「音って何かな?」という話につながります。
笛なので、フルートを吹くように。
——できない。
すぐにはできない。これを1週間やってごらん。できるから。
自分で吹き方を発見していくことで、原理がわかっていく。そこに行き着くまで、すごく時間がかかるけれど、遊びを通して、自分で気が付くことって、やっぱり大きいと思う。
慣れてくると、ストローで「チューリップ」を吹いたり、音も調整することもできるようになる。中学生でもやろうと思えばできる。
(インタビュアーが何度か音を出す)
うまくはなっているよ。でも、1日でうまくなるのには限界がある。これを、間を開けてもいいから時々やることが大事。
今は、動画サイトに多くの人が投稿しているけど、僕の頃はそんな便利なものはなかったから、自分でいろいろ考えながら試して、ドレミファソラシドが出せるまで1年かかった。
——1年!?
そう。僕自身、だいたい何かを身に付けたり、本格的にこなせるようになるまでにはすごく時間がかかると思ったね。
たくさん考えて、試す中で、偶然当たりに巡り合う。
空気砲は、始めて25年になるかな。ここまで、いろいろと変わったけどね。ペットボトルの空気砲を最初に考えたのは、18年くらい前かな。
——でんじろう先生のおもしろい実験は、理科の先生時代に生まれたものが多いんですか?
そう。学校で実験を見せるためにいつも考えていた。学校の先生をやめてからは、小学生向けの科学教育番組の制作に携わったこともあった。
フリーになった頃、企画制作しているプロダクションと一緒に仕事をして、そこで企画を担当していたんだよね。
その番組が7年続いたんだけど、基本的には週1で30分もの、それを年間約50本、7年間で計300本くらい。全部僕が考えたわけじゃないし、僕自身、あまり出演はしていなかったけれど、そういう企画のアイデア担当や、実験面で困ったときの相談役をしていた。
どんなに時間をかけても、「これは結構良い実験だなあ」と思えるのは、1年に1つか2つだったね。ほかの仕事もあわせると、当時は毎日のように朝から夜まで実験のことばかり考えていた。
新しいもの、おもしろいものを見つけることって、時間がかかるんだよね。
──そうなんですね。
たくさん考えて、たくさん試すなかで偶然、当たりに巡り合っちゃうだけなんだ。100個のアイデアを出したら、1個くらい当たりが出るかなという。
パッパパッと、おもしろいことを思いつくことはないと思うし、ほかの人も同じじゃないかな。音楽を作曲する人も、芸術家も、いろんなものを作っている人も、漫画を描いている人も、みんな裏側で、ああでもない、こうでもないってすごく考えて、時間をかけて試して、たまに当たることがある。みんなそうなんだと思う。
いろいろな人がいろいろなことをできれば、おもしろくなる。
——理科の話を聞くのは苦手だけど、実験をしながら話ができて楽しかったです。ありがとうございました。
こちらこそ。そして、いろんなタイプの人がいていいと思う。
理科の勉強が好きでなければ、技術者になったり、もの作りの職人になったり、いろんな人がさまざまな分野で活躍すれば、知恵も豊富に出る。勉強ができる人とか、スポーツで一番になる人とか、お金をもうけるのが上手な人とかね。
いろいろな人が、いろいろなことをやっていける世の中になれば、おもしろいことがいっぱいできると僕は思う。
撮影:モギヨシコ インタビュアー:しむらこうすけ 文・編集:たかなしまき
Profile
米村でんじろう
日本初のサイエンスプロデューサー。1955年千葉県出身。東京学芸大学教育学部大学院理科教育専攻科修了後、学校法人自由学園講師を経て都立高校教諭になる。1998年、米村でんじろうサイエンスプロダクション設立。身近なものを使った実験の企画、開発、パフォーマンスで、科学の不思議や楽しさを伝えている。公式HP: http://www.denjiro.co.jp/
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