のびた人インタビュー

間違えたら、それに気づくだけでも発見になる。── 米村でんじろうさんインタビュー vol.2

サイエンスプロデューサーの米村でんじろうさんインタビュー2回目(全3回/1回目「理科だけが好きだった」)。実験を通して、みんなで楽しみながら大切なことを教わった時間の記録をご紹介します。

 

 

簡単に見えるものって、コツがあって意外と難しいんだよね。

 

 

──簡単に遊べる実験があれば教えてください。

 

ブーメランでも作ろうか。

実は簡単に見えるものって、コツがあったりして意外と難しいんだよね。

 

すぐにできると思わずに、繰り返しやっていくうちに、段々いいものができるようになると思ったほうがいいね。だいたい、ものを作るときというのは、1個目はボロボロ。たいしたのできないんだ。2つ目は少しましになる。3つ目はかなりよくて、5個、6個って作っていくと、作品もすごく変わる。

 

これはね、厚紙です。ふつうの。ただ色を塗ってるだけ。しっかりした紙なら別に何でもいいんだよね。最初は10枚くらい作るつもりでないとね。簡単そうに見えても、実際やってみると簡単じゃない。

 

※ブーメランは、細長く切った紙に切れ込みを入れ、その切れ込み同士を組み合わせて作るもの。作り方にコツがあるため、最初はうまくいかないそうです。

 

 

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何かを作る作業は、実際に手を使ってるから、その分すごく頭を使ってる。

 

 

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──僕のは?

 

あってる。まずまず。

 

 

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次はブーメランの原理になるものがわかってるかどうかなんだけど、ブーメランというのはプロペラなので、羽を調整して。

 

(でんじろう先生がブーメランを飛ばす)

 

──わー!戻ってきた―!(カメラマン・モギ)

 

戻ってくるためには、調整しないといけないの。投げ方もね、裏表があるの。ピンクが表でね、回転をつけて。

 

 ──回転をつける?

 

そう。回転が大事。

 

おもりをつけると遠くにも飛ばすことができる。ブーメランの羽は、一枚一枚、飛行機の羽でもあり、ブーメラン自体がプロペラなんだよ。だから、翼の形っぽくして、羽をプロペラのようにねじってあげないといけないんだよね。たてに回転をつけて投げると、自分で旋回して戻ってくる。

 

 

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 ──なんかこう、ねじ曲がってる。タケコプター?

 

そうそう。ねじってあげるの。

 

──かえってきた!

 

インタビューより実験教室が楽しくなっちゃうね(笑)。

 

 

子どもの頃から興味があったブーメランは、習得まで30年。

 

 

紙でも、学校だったら体育館が空いてるときに試してみればいい。羽の枚数を変えたり、大きさを変えたり、いろんなことを工夫してやってみたらね、いろんなことができるから。何回も何十回も、1年間も2年間もやってみる。それを一回だけちょこっとやって、「ああ、ダメだった」っていうのはあきらめるのが早いね。

 

僕のブーメランは30年。教師時代から研究したり、計算したり、試したりしながら30年。なんでブーメランて戻ってくるんだろうなあって興味から調べ始めて、学校にあった紙でやってみて。

 

 

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たとえば、このブーメランだったら、ひとりで100枚は早く作れる。目をつむっててもできる。職人と同じで、ものすごい回数を練習してるの。

 

風船も、すぐにふくらませられると思うでしょ?すぐに結べると思うでしょ?でも、できないんだよ。素人は結べない。結び方を知らない人はできない。糸とは違って縮んじゃうからすごく苦労する。簡単そうに見えても、ものすごくコツがあるし、頭も使ってるんだよね。間違えたら、それに気づくだけでも発見になる。

 

 

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──できない。

 

大人もすぐにはできないよ。

 

──何か理屈があるんですか?

 

 ある。みんな理屈がある。

 

 

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わかってる人は、失敗するか、成功するかもみんなわかる。

 

 

──静電気は?

 

棒立てるよりは簡単。棒は、バランスをとるのはどういうことかな、という話になるので。

 

身近にある風船とかでも、こすり方もコツがあるわけ。きゅっきゅっと鳴ってるのは手が濡れてるから。汗かいてるの。わからない人は何が起きても気づかないけど、わかってる人は何が起きているのか、みんなわかる。

 

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これが失敗するか、成功するかもみんなわかる。

 

このためには、すごい数の練習をしてるの。だいたい、こすって静電気を起こす方法は年季がすごいの。わかりますよ、この人は何年くらいやってるだろうかとか。初心者もね。

 

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じゃあ次、ゴムの実験をしようか。

ひっぱるとあったかくなるの。ゴムがね。

 

 ──あったかい!

 

 今度は、冷やしてみるね。

 

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──つめたっ!

 

普段から、熱くなったり、冷たくなったりしてるんだけど気づかないだけなんです。 輪ゴムとか、ふつうの風船とかでも同じことが起きてるんだけど、知らないから見えていない。

 

植物も知らなければみんな草にしか見えない。たとえば、鳥のさえずりは、鳥のことを知ってる人からすると「ああ、百舌(モズ)だ。もう秋なんだなあ」となる。知っている方が実験もおもしろくなるんだ。

 

 

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特別なものがなくても、身近なもので実験はいっぱいできるんだよね。

 

何度も何度もやっているうちに段々うまくなっていく。

 

そういったなかで、実は、気づいてるし、考えてるし、発見してる。

 

電気が人の役に立つまで200年くらいかかった。

 

次は、電気コップ(静電気実験)。

 

音が聞こえる?

 

──ああ、静電気だ。

 

 

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今はできないけど、本当は、真っ暗闇にして目が慣れてから見ると、風船からコップに電気が飛び込んでるのが、光で見えてくるの。

 

──真っ暗闇にして?

 

めっちゃ真っ暗闇にして、人間の目が暗闇に慣れる状態で2、3分間待つと、風船から光がコップに向かって入っていくのが見えるの。そうするとね、自分で電気を起こして、その電気がコップに入っていく、というのが実感でわかるの。理屈じゃなくてね。

 

じゃあ、その電気はどこからやってきたのかなという話だけど、出てきた興味に対して、ちゃんと説明してくれるわけだよね。科学の勉強で。逆にふつうは最初にそういう知識を注入されて、あんまりそういうのが結びつかないからさ。

 

──今、電気コップにかなり電気たまってる?

 

ん?まだそんなにたまってない。楽勝で1万~1万5000ボルトまではたまるんだけど。

 

──あ、今ばちって!(たかなし)

 

──こわい~(モギ)

 

──ああ、なんか跳ね返ってる!

 

そう。これでたまり具合がわかるの。そうすると、「電気がたまってるのをどうやって確かめるか」みたいな話になるわけ。

 

やる?びりって。ちょっとこわいけど。

 

──そういえば、でんじろう先生は電気が苦手って。ネットに出てた。

 

出てた?ネットはすべて正しいというわけではないからね。

でも、これを好きな人はいないよ。

 

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みんな集まってもらって。手をつないでもらって、コップをしっかりもって、指を1本出して、で、こう軽くふれればいい。

 

 

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──わあ!びりりって。

 

まだ全然弱い。本当はこの10倍くらいなんだよ。

 

この電気コップの原型は、250年くらい昔、世の中で電気がまったく役に立たなかった頃に、静電気を起こしてその静電気をためておく道具として、空き瓶をつかって発明されたの。僕らはそれを、プラスチックコップで再現した。

 

電気の始まりは、最初、人の役に立たせるためではなくて、静電気がものめずらしくて、くっついておもしろいよねって。何百ボルトも静電気をためた状態でたくさんの人につながせて、みんなが驚いているのを見て喜んで、という時代があるわけ。

 

電気が役に立ち始めたのは、もっと後。今から100~130年くらい前。たとえばモールス信号とか電信機とか。

 

その頃にようやく電気の通信が始まって、1878年のパリ万博博覧会の頃、発明家のトーマス・エジソンが白熱電球を発明した。それから、戦後、トランジスタラジオや計算機、コンピュータ、ネットなどが生まれた。

 

電気が役に立ち始めたら研究も始まって、一気にこんな時代がきた。僕の学生時代にはネットなんてありえなかったし、携帯もなかったもんね。

 

 

失敗はおもしろい。

 

 

科学の基本は「好奇心」。

 

人間がみんなもってる。特にこどもたちは好奇心が旺盛で、「なんでかな」「なんでかな」って。

 

そこで、「月食が起きるんだよ」などと解明してくれるわけ。

 

知りたいから調べて、結果が出る。それが役に立つ。

 

電気だって最初は役に立たなくて、「こんなもので通信なんてやれるの?」と言われていたけれど、段々進化していって、世界的に進んだ。想像もつかなったことが、1世紀、2世紀たってから実現するようになった。

 

今はもう電気がないと生きていけないでしょ。

 

すべてにおいて可能性に満ちている。

 

 

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技術や科学って、「もう限界だ」と思われることもあるけれど、実は200年前からみんながそう思ってた。

 

だから、将来的に、きみたちが大人になった頃にはわからないよね。何が実現するのか。

 

すごい科学、科学技術とか、今回ノーベル賞もらったじゃない。

 

──青色LED。

 

青色LEDが発明されたことでイルミネーションも変わったじゃない?それまでは小さな豆球しかなかった。みんな同じ色。そこに色を付けて。信号も大型ディスプレイも全部LEDだよね。

 

科学は人間が謎を解き明かすと、測りきれないくらいの可能性が生まれる不思議を秘めている。すごいなあと思うんだよね。そういう意味でも、失敗は無駄じゃない。おもしろいしね。

 

ただ、ノーベル賞をもらえる人は一握り。そのノーベル賞をもらえるためには、ものすごい数の人たちが支えるための研究をすごくしてるわけだよね。研究もたくさんの失敗があってうまくいく人がいる。

 

儲けようと思っても無理だしね。それくらい科学は可能性がまだまだ入口なんだと思う。

 

みんなが研究すれば、すごいことがきっと起きる。

 

想像もできない、予想もできないことが起きるよね。

 

 

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<Vol.3へつづく>

撮影:モギヨシコ インタビュアー:しむらこうすけ 文・編集:たかなしまき

 

 

Profile

米村でんじろう

日本初のサイエンスプロデューサー。1955年千葉県出身。東京学芸大学教育学部大学院理科教育専攻科修了後、学校法人自由学園講師を経て都立高校教諭になる。1998年、米村でんじろうサイエンスプロダクション設立。身近なものを使った実験の企画、開発、パフォーマンスで、科学の不思議や楽しさを伝えている。公式HP: http://www.denjiro.co.jp/

 

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