こどもが自然と集まる場所

大人の「おもしろそうだから」がいっぱいの小さな科学館 ── 理科ハウス vol.1

 

「なぜこうなるの?」から好奇心が動き出す。

 

赤茶系の外観と、丁寧に磨かれたガラスが印象的な入り口。閑静な住宅街で、外国のミュージアムのような雰囲気を醸し出す理科ハウスは、世界中探してもここにしかない、いたずらと笑いに満ちた科学館です。

 

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おもちゃのような展示物を天井から床の隅々にまで見ることができる理科ハウス。館内に入るとまず目にする「入館料入れ」は、お金を入れると、1円から100円まで選別するしくみになっています。

 

「実験の本で見つけて作りました。これだとね、大人のみなさんが100円以上入れてくれるんですよ。おもしろいのは1円玉。最初に1円玉を入れてもらって、なんでだろうってなるのが狙いなの」と、森さんは言います。

 

取材した日は、ちょうど「宇宙を語ろう!プラネタリウム」を開催中(2014/2/11~4/10、初回のみ参加費100円)。1階には、森さんと学芸員・山浦安曇さんが2日かけて作ったというドームが設置されていました。

 

星を映し出すプラネタリウムは、市販の投影機をゴミ箱の上に固定させたもの。ドームは、土台に展示用の長テーブルを使い、天井部分はスチレンボードを八角形に組み立て、光がこぼれないようにテープでつなぎあわせるなどして製作。使用後は屏風のようにたたんで収納できるため、2009年12月にこのイベントを始めてから毎年再利用しているそうです。

 

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「プラネタリウムでは約20分、毎週テーマ別に星の話をしています。天の川が見える季節、星の動きと星座の違い、惑星と恒星の違いなどを専門家の人たちに教えてもらったり、本で勉強したり、実際で試してみたりして得た知識が教材。こどもたちと一緒に星の動きを見ながら、わからないことは、じゃあ本で調べてみようかって。たまたま詳しい大人がいるときは、その人がどんどん話をしてくれるの。おもしろいですよ」

 

子どもと祖父の影響で科学好きに。

 

3児の母でもある森さんは、自他ともに認める科学好き。そのきっかけは約20年前、わが子が小学5年の頃、「息子から手が離れる前に、何か一緒にできたら」と始めた実験遊びでした。最初は、図書館で実験の本を借りてスライムを作ったそうです。

 

「理論物理学者のアルベルト・アインシュタインが来日したとき、物理学者として講義の通訳をした祖父、石原純の影響も大きいです。子育て中にたまたま帰省した際、実家にあったおじいちゃんの著書『子供の実験室 アルス』(日本児童文庫/1928年)を読んでみたらすごくおもしろくて。登場人物は男の子と女の子の兄妹と、近所に住む科学に詳しいお兄さん。そのお兄さんの実験の話がわかりやすくて、わくわくしたの。今、図書館にはあまり置いていないけれど、理科ハウスではいつでも読めるようにしています」

 

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理科ハウスを始めて気づいた、「塾までの20分」に立ち寄れる場の大切さ。

 

森さんはその後、「科学あそび伝道師」として学校や図書館で科学実験を紹介するようになり、2005年に近所の子育て仲間たちとの実験教室「サイエンス道場」を始めます。月1回、公民館や公園の一角でこどもたちを集めた道場はクチコミで人気を集め、出張のワークショップも評判に。一方、森さんのなかでは「こどもたちが誰でも気軽に立ち寄れる場を作りたい」という思いが膨らんでいたと言います。

 

「科学に興味をもってもらうためには、こどもたちが自分から言葉や疑問を発せる場があるといいなと思いました。自分で考えたり、工夫したり、問題を見つけて解決できる場。それに、ぼーっと外を眺めるような時間も大事です。でも、特に小学生の高学年は塾や習い事で忙しい。同じ時間に、いろんなこどもたちが混ざって遊べる場を作るには、大人がこどもの都合にあわせるしかないんですよね」

 

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こどもたちがいつでも気軽に行ける公園のような場所。その実現に向けて動き出したとき、森さんが声をかけたのは山浦さんでした。山浦さんは、森さんが参加していた自然観察サークルの仲間。こども同士も同級生で、さらに虫や生物の知識力がずば抜けていた山浦さんに、森さんは「彼女しかいない」と感じたそうです。

 

「彼女のもつアイデア、展示の見せ方がとにかくすばらしい。理科ハウスの展示はほとんど彼女が考えたものです。昔、学芸員をやりたかったと彼女は言っていました。だからかもしれないけれど、人を楽しませる展示の発想が豊か。ただ見せるだけじゃなくてどんな入り口を作るか、おもしろそう、さわってみたいと思わせる入り口。パンフレットやポスターもデザインからすべて彼女が担当しています」

 

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館長の森裕美子さん(左)と学芸員の山浦安曇さん。山浦さんがデザインした元素記号Tシャツは、東京・科学技術館でも人気。(写真提供:理科ハウス)

 

山浦さんというパートナーを得た森さんは、2008年5月、理科ハウスを立ち上げます。すると、まずサイエンス道場で出会ったこどもたちが来てくれ、そのまま入場者は増え続けたそう。2周年を迎えた日の2週間後には入場者数1万人を突破するなど、理科ハウスは広く知られていきました。それと同時に、森さんは理科ハウスが地域のこどもたちに対して、ある役割を担っていることに気づいたそうです。それは、「こどもたちが放課後安心して過ごせる場所」でした。

 

「自分がやりたくて始めたことだったから特に期待もせず、本が読めて、そこに誰かがきてちょろっと話をしていけば場として何か役に立てるのかなと軽く考えていました。でもこどもたちと接するうちに、放課後の居場所の必要性を強く感じました。“塾に行くまでの20分でもいいからおいで”と言うと来るんですよ」

 

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1人ひとり異なる興味を知るのが楽しい。

 

普段は、こどもが放課後ふらっと遊びに行く場所としても地域の人に広く知られている理科ハウス。こどもたちが自然とここにきたくなる理由は、この6年間変わらない、森さんと山浦さんの「訪れた人に話しかける」という習慣にもあるようです。

 

「この子は何に興味をもっているのかなって観察をしながらおしゃべりしています。虫が好きな子もいれば、電気の実験が好きな子もいたり一人ひとり全然違うから」

 

「声をかけられるのをいやがる子どももいるのでは?」と質問をすると、森さんは「ふふっ」と笑ってこう答えてくれました。

 

「だって、話をしないと伝わらないでしょ。たとえば、ここの展示はどれも答えがないんですよ。紙をめくると『スタッフに聞いてね』なの。その子が自分の答えにいきついたプロセス、考え方をわたしたちは知りたい。『そういう考え方があったのか!』と逆に教えてもらうことも多いです」

 

吹き抜けになった建物内では、笑い声や驚く声がよく聞こえてきます。決して耳障りではなく、話が盛り上がる楽しさをみんなで共有し、胸をはずませる。理科ハウスは、そんな空気感を感じさせてくれます。

 

「見る人、さわる人次第で展示の内容がさらに変化するのも理科ハウスの大きな魅力だと思います」

 

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取材中、気づくと小学生の男の子が床に本を広げていました。そのこは「ねえねえ」と森さんに話しかけたり、レジの前に置いてあるペットボトルのおもちゃで遊んだり、プラネタリウムでは中心になって森さんに質問したり、質問に答えたりしていました。

 

2階に上がって、「これ何だろう」と展示品を眺めていると、「あ、わたし知ってる」と小学高学年らしき女子ふたりが話を始めました。そのすぐそばでは、山浦さんが天井から吊るされた風船について、「今日展示したばかりなの。まだ試してないから成功するかわからないけど、やってみてー。どうなると思う?」と、気さくに声をかけて実験の解説をしていました。その話がどれもわかりやすい。

 

また、先のまったく読めない展開に「そうだったのかー!」と思わず声が上がります。その声に引きよせられるように、中学受験を終えたばかりという親子がのぞきこむと、「やりませんか?」と話しかける山浦さん。するとその親子も輪の中に入り、みんなで手をつないで静電気で遊んだり、音を鳴らしたり、いつの間にかお互い顔を見ながら笑っている──こんな場面が生まれていました。

 

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「ありがたいことにこうして人がきてくれて、そのほとんどがリピーターさんなんです。家族を連れてくる子も多いですね。その次には友だちを連れてきて、その友だちがまた友だちを連れてきてくれます」

<次回へつづく>

 

撮影:モギヨシコ 文・編集:たかなしまき

 

 

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 理科ハウス

住所:神奈川県逗子市池子2-4-8

電話:046-871-6198

開館時間:PM1:00~PM5:00

閉館日:月曜と金曜

入館料:中学生以下は無料、大人100円

    (大人は1年間何回も入館できるフリーパス券1000円あり)

HP:http://licahouse.com/

 

 

 

 

 

 

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