のびた人インタビュー
再生回数1億回以上のキッズチャンネルを作った姉妹ユニット──東京ハイジ インタビューvol.1
YouTubeに再生回数4900万アクセス(2017年3月時点)を記録しているキッズソング「はみがきのうた」があります。
イヤイヤ期(2歳頃)のこどもたちを育てるお母さんたちを中心に、クチコミだけで評判が広がって、毎日4万単位でアクセスが伸び続けるなどブレイクした「はみがきのうた」。日本の、はみがき関係の歌では一番再生されているそうです。
この「はみがきのうた」を作ったのが東京ハイジという、姉妹ユニット。そのほかのキッズ向けソングや童謡、昔話などを収録したアニメ動画集『東京ハイジチャンネル』は、総再生数が1億回以上。チャンネル登録者数は15万人以上(2017年3月時点)など、お母さんやこどもたちの間で人気です。
特にこどもたちが夢中になって見るというアニメを作り続ける東京ハイジの仕事、こども時代についてなどをインタビューしました(全2回)。今回は、動画をアップしたきっかけから、普段の仕事の様子などをご紹介します。
神様お願い、私に時間をください
──東京ハイジは、結成から何年くらいでしょうか。
ワカバ 20年くらいです。わたしが大学を卒業後、広告代理店で働いていたとき、東京で姉と一緒に何か作品を発表したいと思って、「デザインフェスタに出してみよう」となりまして、そのときに、ユニット名を東京ハイジと名付けました。青森県から上京した赤いほっぺのハイジのような姉妹が、大都会東京にきてぼーっとしている、そんな姿をイメージしています。
東京ハイジとしての活動が仕事になっているのはここ1、2年です。最初、メディアに取り上げられるようになった頃はふたりであたふたしていたのですが、わたしたちにとって手の届かなかったような方にマネージメント関係で仲間に加わっていただいたり、苦手なところを誰かにカバーしてもらう術を覚えたりして、何とかお仕事ができる体制が整ってきました。
アニメ動画に関しては、ささっと作れるものではなくて、2、3分の動画制作に数か月かかってしまうので、これが立て続けだとしんどい。今は完全にキャパオーバーです。

ササキワカバさん
──アニメ動画の作り方についてお聞きしたいのですが、どんな段取りでできていくのですか?
ワカバ だいたいは姉の音楽が先にできていますね。メロディーと歌詞が同時にあがってくるので、わたしがキャラクターのデザインをして、絵コンテを起こします。
トモコ 逆に、妹にキャラクターをいっぱい描いてもらって、その中から作りやすそうなものを選んで曲を作り始めるときもあります。
ワカバ わたしたちのほかにも、平山亮さんというアニメ制作時のすごく大事なパートナーがいて、絵コンテの後は、その方と一緒にやりとりをしながらアニメ動画を作っています。
──見ている方は楽しいのですが、作っている方は細かくて大変そうですよね。また一般的に「スマホで育児なんて」のような、動画への風当たりの強さを少し感じます。
ワカバ 確かに。先日、『東京ハイジを30分たっぷり』というおまかせ動画をアップしたんですけど、こどもに見せるにはギリギリ許される時間なのかなと思っています。しかも、この30分があれば結構な量の家事をこなせるんです。
おすすめなのは、家事動線のシミュレーションをしてから、「スタート!」と子どもに動画を見せること。そこから家事を一気にやると、洗濯物の始末から夕飯の準備までできることも。達成感があっていいですよ。
──「たった30分でいいの、神様私に時間をください!!というコピー(動画紹介文)もいいなあと思いました。
ワカバ 見てるお母さんたちと同じ立場なので。30分間集中すれば、相当なことができるはず!できない分はスパッとあきらめる!(笑)

2016年2月に初リリースしたCD&DVD『東京ハイジ まいにちのこどもうた』。CDには「はみがきのうた」「うんちでろうんち」「へんしん!おでかけマン」など全16曲、DVDには10曲分のアニメーションが収録されている 写真提供:東京ハイジ
必要に迫られて始めたYouTubeが拠点になるまで
──このおまかせ動画にも収録されている「はみがきのうた」について、YouTubeにアップしたきっかけを教えてください。
ワカバ 最初は、某ファミリー向けサイトのために作った動画でした。でも1年くらいたったある日、そのサイトが閉鎖したんですね。
そうしたら、途端に大量の問い合わせメールが東京ハイジの公式サイトにくるようになったんです。「この動画がないと、子どもが歯を磨かない」「見られるようにしてください」って。それが毎日だったので、どうしようと思って。
それで、「そういえば、最近、YouTubeっていうのがあるらしい」と思って、YouTubeにアップしました。「みなさん、ここを見てください」って返事もして。その後、1、2年くらいそのままにしていたら、今度はYouTubeから連絡がきたんです。
「再生回数がすごいからちゃんとカスタマイズしてください。しっかり運営してください。」って言われたんです。

東京ハイジのおふたり(左:姉のササキトモコさん 右:妹のササキワカバさん)
──連絡がきたんですね。直接。
ワカバ すごい昔のことで、記憶が定かではないですけど、そうだったような気がします。
──その頃はどういったご活動をされていたんですか?
ワカバ ふたりでアニメを作ったりしていました。『キッズステーション』というCS放送局で「カレーの国のコバ〜ル」というアニメを作っていたり(2004年9月~2004年12月放映)。1話3分くらいのショートストーリーで、全部で13話のシリーズものでした。
「はみがきのうた」の再生回数が多くなってからは、「そんなに見てくれている人たちがいるなら」ってオリジナルもぽつぽつ作るようになりました。
音楽のプロへの道or小学校の先生
──今のお仕事は、もともと子どものときになりたかったものと近いですか?
トモコ 近いです。わたしは4歳のときにピアノがやりたくて、自分から言い出してピアノを習い始めました。本当にピアノが大好きすぎる変な子だったんです。そのままピアノの先生になりたいと思っていて、ずっとこだわり続けていました。
とはいえ、就職活動の頃は悩んだし、やっぱりそんなにうまくはいかなくて、小学校の先生になろうとか、企業の広報に入ろうかとか別の道も考えました。でも、やっぱり音楽を捨てられないという気持ちがあって。その後、ゲームメーカーに入社して音楽の仕事に携わるようになったので、わたしは小さい頃になりたかったものになれています。

ササキトモコさん
ワカバ 母に「ピアノ教室に通わせるお金がないから」って言われた時、「幼稚園を辞めるので通わせてください」って粘ったくらい、姉はピアノ一直線でした。
わたしもすごくピアノをやりたくて、習い始めたんですけど、嫌いになってやめてしまいましたね。
好きだけど上達しない絵。結局……
ワカバ わたしは、絵を描くのが好きでした。でも、全然上達しなくて。大学も美術大学に憧れていたけど、やっぱり絵がヘタで普通の大学に進学しました。教職の免許を取ったとき、もう絵の道はあきらめようかとも思ったのですが、やっぱり捨てられなくて。でも、就職活動は全部落ちて。
たとえば、広告代理店に自分のポートフォリオを持って行くと、「絵がうまい子はいっぱいいるからね」って言われるんです。最終的には、「エクセルとか使える」って言って、広告代理店みたいなところにもぐりこみました。入社してからいまいちエクセルを使いこなせないことがばれて、全然違う部署に配属さたり。そこの上司が奇特な人で「この子は変な作品をいっぱい作っているみたいだから、それをもって営業に行こう」みたいなことになって。その時作ってもらったコネが今の仕事にもつながっています。
好きで続けていると、なんとなくそっちの方向に行くんだなぁって思いました。本当に絵がヘタだったので。
トモコ 本当に絵を描くのが好きでしたよ。妹は小さい頃、漫画を描いていたんです。『ドラゴンクエスト』を少女漫画風に。
ワカバ 大学ノート3冊分くらいで、『ドラゴンクエストオリジナルストーリー』を描いていました。当時ファミコンが大好きで。
──その漫画はまだとってありますか?
ワカバ とってあると思います。実家の小屋に。大人になってから読んだことはないですけど。
トモコ わたしが実家を離れて一人暮らしをしていたとき、妹から手紙と一緒に送られてきた漫画を今も大事に持っているんですけど、すっごくぶっとんでいて、今読んでも斬新です。人が転がってきて、転がったままどこかへ行っちゃう。すごくシュールな展開なんです(笑)。
最初に感じたことを信じて、100%力を注ぐ(トモコ)
──子どもの頃から大切にしてきたことが今につながっているというお話を伺いましたが、今、仕事をするうえで大事にしていることはありますか?
ワカバ 何かつくるときは自分が楽しめることを大事にしています。クライアントさんの意見も大事にはしながらですが、違和感をもったら何とか抵抗をして、お互いがいいと思える方へ進めるようにしています。
トモコ 同じですね。自分が楽しいと思えることじゃないと、結局作れない。楽しいと思えることだったら全力を尽くす。だから、その仕事が楽しくなる仕事かそうでないかを見る目を養っていくことも大事だなって思います。苦手そうなことだったら好きになれるような要素を見つけて、100%納得ができる仕事になるようにしたいですしね。
──今、お子さんもいらっしゃいますが、ひとりのときとはどうしても仕事の打ち込み方が変わってくると思います。どんな風に日常に仕事を取り入れているのでしょうか。出産前と大きく変わったことはありますか?
トモコ 今もちゃんとはやれていないけれど、ファーストインプレッションを大事にして、それを練り込まないようにしています。つまり、最初にひらめいたことを信用して、どうやったらうまくいくか、それだけに集中します。あとから「いや、違うよな」とか「やっぱりこうだな」とか、試行錯誤しない。時間をなるべくかけないで、くよくよしないで仕事する。ここが大きく変わった点ですね。
ワカバ わたしも試行錯誤する時間が減りました。最初の直感を信じて、ばーっと作ります。
──純度の高いものを作る。
トモコ 意外とこねくりまわしても、さほど変わらなかったりするんですよね。最初のイメージが大事だなと思います。
でも、子育てでは、こんなこともあります。
うちでは、娘の幼稚園が終わる夕方5時までを仕事の時間にしているのですが、この前、曲作りがすごくノッていて、子どもにテレビを見せながら仕事をしていたんですね。そうしたら、夜8時をすぎちゃってて。ほんとうは夜9時に寝かせたいのに、ごはんも食べさせていないし、おふろにも入らせていない。子どもをすごく怒りながら、夜10時くらいに寝かせたんです。わたしが悪いのに。
そうやってうまくいってるわけではないので、毎日本当に大変です。妹は3人もいるのでもっと大変だと思う。
ワカバ 仕事は夕方5時になったら、「おしまい!」ってスパンとやめます。仕事をひきずりながらだと、こどもにイライラしちゃうから。それで、こどもたちが寝たらまた仕事をする。
──寝かしつけでは絵本を読み聞かせてとか、こどものお話を聴いてとか。
ワカバ そんな優雅な感じではないですね。年齢差があって、絵本を読み聞かせるのはとても難しいです。乱暴者の三女がすぐ絵本をぶんなげるので。長女には「おやすみー」と言って布団を掛ける。次女はわたしにくっついて、わたしの耳たぶを触る。三女は隣でおっぱい。これが今の寝かしつけです。
──そうなんですね。では、日中のワカバさんはどんな様子なのでしょうか。
ワカバ わたしは家の中をとびまわっている感じです。お風呂に入れて、ごはんを食べさせて。自分はもうトイレに行く暇もない。やばいって思った瞬間にやっちゃったこともあります。
トモコ それをいちいちLINEで送ってくるんですよ。「もらしちゃった!」って。そんなことしなくていいのに(笑)
──誰かに言いたいですよね。
ワカバ 誰かに言いたい(笑)
<vol.2へ続く>
撮影:みきかよこ インタビュアー:みきかよこ&たかなしまき 文・編集:たかなしまき
Profile
東京ハイジ
青森県出身、6歳差の姉妹クリエイターユニット。普段の仕事では、姉のササキトモコが脚本と音楽、歌を担当。妹のササキワカバがイラストとアニメ(動画)を担当し、ふたりでアニメや動画、Webゲーム等の作品を制作している。主な活動拠点はYouTube『東京ハイジ チャンネル』。公式サイト:http://tokioheidi.com/
姉のトモコは、千葉大学教育学部音楽科を卒業後、ゲームメーカーの株式会社セガ・エンタープライゼス(現:株式会社セガゲームス)入社。2004年よりフリー。現在、東京ハイジの活動のほかに、ゲームサウンドクリエーター(ササキトモコ)としても活躍中。
妹のワカバは、岩手大学人文社会科学部卒業後、広告代理店入社。2000年より、フリーのイラストレーターとしてこども番組や絵本などで活躍している。トモコは5歳の娘の母。ワカバは0歳から11歳までの3児の母。
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